日本社会をどの社会と比べるかによって,「日本的」なものの定義が変わるかもしれない。パプア・ニューギニア,ポーランド,アルゼンチン,北朝鮮などの人々と比較すると,日本人の特徴というものは,北米や西欧の人々と比べたときとは違ったものになるだろう。欧米以外の視点から観察すると,日本社会のどういう特徴が際立っていえるか。この問題の解答の中にも従来の日本人論を修正する素材が,山のようにある。
韓国の李御寧の報告によると,韓国語には「甘え」に該当する語句が日本よりずっと豊富にある。「甘え」よりももっと細分化された「オリグヮン」と「オンソク」という2つの言葉があり,それにいろいろな言葉がくっついて活用自在,日本語よりもずっと複雑多様なニュアンスを持っている,という。
また,韓国語では「大丈夫」という言葉は男という意味しかなく,何かに対処する条件が十分だという意味では使わない。「裸一貫」という言葉も,日本語にあって韓国語にはない。つまり,韓国語には依存心を強調する語が多く,日本語には独立心を表示する言葉が多い。言語が文化を反映するという,日本人論者の多くが主張している前提を使えば,日本人は自我の発達が不完全だというのは当たっていないのではないか,というのである。
杉本良夫&ロス・マオア (1995). 日本人論の方程式 筑摩書房 p.148-149
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