ケーキ作りのプロセスになぞらえてG×Eの概念を説明しているのが,ケンブリッジ大学の生物学者パトリック・ベイトソンである。100人がほぼ同じ材料を作ってつくりはじめても,,できあがったケーキは100通りになる。材料のごくわずかな違いは,かならず結果に違いをもたらす一方で,その違いを前もって決定しているわけではない。現実に結果としてあらわれる違いは,プロセスから生じる。「発達は化学作用である」とベイトソンは言う。「そして,最終結果を材料に帰してすますことはできない」
それと同じく,ある遺伝子が存在するからといって,ある種の,もしくはある数のタンパク質が自動的につくられるわけではない。まず,あらゆる遺伝子は,タンパク質の組み立てを開始するにあたり,活性化——スイッチオン,すなわち「発現」——される必要がある。
さらに,遺伝学の分野で最近わかったことだが,一部の遺伝子——その数は,現時点では不明である——は可変性を持っている。場合によっては,同じ遺伝子が,いつ,どのように活性化されたかによって,異なる種類のタンパク質をつくることがあるのだ。
これらを考えあわせれば,ほとんどの遺伝子はそれのみで何らかの特徴を直接につくることなどできない。むしろ遺伝子は,発達のプロセスに積極的に関与するとともに,柔軟に変化する構造を持っている。遺伝子を消極的な指示マニュアルだと言いあらわす人びとは,遺伝の仕組みの美しさとパワーを矮小化しているに等しい。
デイヴィッド・シェンク 中島由華(訳) (2012). 天才を考察する:「生まれか育ちか」論の嘘と本当 早川書房 pp.35
PR