遺伝子と環境の相互作用はきわめて複雑で,一般の人々に理解できるよう説明するのは非常に厄介である。遺伝子の従来の(誤った)概念とは異なって,単純で,ただちにピンとくるというわけにいかないのだ。その点からすれば,相互作用論者にパトリック・ベイトソンがいるのは幸運である。かつて英国王立協会副会長(生物学部門)を務めたベイトソンは,遺伝の仕組みをわかりやすく解説する第一人者であるが,その名前には象徴的な意味で,ある因縁が秘められている。約100年前,彼の祖父のいとこである著名な遺伝学者ウィリアム・ベイトソンは,「遺伝学[genetics]」という造語を編み出し,遺伝子はさまざまな形質を直接につくる情報をすべて含んだ小包であるという単純な概念を世に伝えることに努めていた。そして,その三代目にあたるパトリック・ベイトソンが,広く普及しているその概念を刷新しようとしているのだ。
「遺伝子にはタンパク質のアミノ酸配列の情報がコードされている」とベイトソンは言う。「それだけである。神経系統や行動パターンの情報はコードされていない」
デイヴィッド・シェンク 中島由華(訳) (2012). 天才を考察する:「生まれか育ちか」論の嘘と本当 早川書房 pp.37
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