たとえば,猫のレインボーとそのクローンのCc(「カーボンコピー」の頭文字にちなんだ名前)の例がある。2001年,レインボーからペットでは世界初となるクローンが誕生した。クローン猫のCcはテキサスA&M大学の遺伝学者のチームによってつくられ,検査によって核DNAがレインボーとまったく同じであることが確認された。ところが,カーボンコピーのように瓜ふたつというわけにはいかなかった。まず,外見がまったく異なる。毛色も(レインボーは茶,白,黒の典型的な三毛猫だが,Ccは白と灰色)体形も(レインボーはぽっちゃりと太り,Ccはすらりと痩せている)違うのだ。
さらに,直接観察した人びとによれば,性格もそれぞれである。レインボーは静かでおとなしく,Ccは好奇心旺盛で遊び好きだという。年齢差を考慮したとしても,遺伝子操作によるクローンは完璧な複製には程遠いことが明らかだ。「もちろん,大切な飼い猫のクローンを作ることは可能である」とAP通信社の記者のクリステン・ヘイズは結論している。「だが複製は,行動も,外見すらも,オリジナルに似るとはかぎらない」
デイヴィッド・シェンク 中島由華(訳) (2012). 天才を考察する:「生まれか育ちか」論の嘘と本当 早川書房 pp.93
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