つまりこういうことだ。わたしたちが魚だと思う生物をすべて,ひとつのグループに入れるとしよう。それが「実在するグループ」であるには,進化的につながりのある種がすべて入っていなければならない。そこで「このグループの祖先の子孫で,このグループに入りそこねているものはいないか?}と尋ねてみよう。すると,驚いたことに,魚とはとても呼べない生物がわれもわれもと現れてくるのだ。その中には,爬虫類や,哺乳類,つまり人間のようにまったく魚でない動物も含まれる。そして分岐学の厳密なルールに従えば,それらをすべて——トカゲからカメ,ヘビ,クマ,トラ,ウサギ,そして人間まで——そのグループに入ることになり,もはやそれは魚の集団ではなくなる。すなわち,この新たな分類法によれば,わたしたちが知っている「魚類」というグループは存在しなくなるのだ。かくして,革新的な分岐学者の手により,「魚」は消された。その消滅は,進化のつながりに忠実な新しい分類法がもたらした予想外の結果だった。
キャロル・キサク・ヨーン 三中信宏・野中香方子(訳) (2013). 自然を名づける:なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか NTT出版 pp.9-11
PR