分類学者が抱えるジレンマの本質は,鳥や植物や昆虫といったバラエティに富む生物を分類しようとすると,たちまち無数の類似点や相違点に直面するところにあった。生物を種や属に分類するときには,多様な類似点と相違点の,どれを基準にすればいいのだろう?当然ながら,類似と相違のすべてが同等の重みをもつわけではない。分類学者は,自らの五感と,それを通じて知る自然界の秩序をよりどころとして,どの相違や類似が重要で,どれが重要でないかを見極めようとしてきた。まず,ある特徴によって——赤い色のものと,緑色のものとで分けるというように——分類してみて,それが間違っているように思えたら,今度は別の特徴によって分類する。その結果が理にかなっているように思えたら,その分け方が正しいということになる。
キャロル・キサク・ヨーン 三中信宏・野中香方子(訳) (2013). 自然を名づける:なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか NTT出版 pp.115
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