輝かしい勝利だった。ひたすら数字と格闘する日々の末に,大きな跳躍が待っていた。直感に導かれて分類し続けた200年ののち,分類学はやっと定量的科学へと変身できた。説明不能の決定や指示はもはや用なしになった。ソーカルとミチナーは彼らの作業手順を説明可能にした。昨今の官僚の言葉を借りれば,分類の手順を“見える化”したわけだ。実際,彼ら2人はいかにして形質を選択したか,どのようにして形質をコード化したか,どんな解析方法を用いて結論を導いたかを正確に説明した。そこにはいっさいの隠し事はなく,言葉を浪費して弁明する必要もなかった。神秘的な種でさえ,必要とあらば,純粋に数学的定義を与えることができる。ある数値レベルの差異があれば2つの対象物は別種であると規定できる。もっと高いレベルの差異があれば属の違い,さらに高ければ科の違いというふうに,差異を数値化すれば直感などまったく必要ない。こうして産まれたばかりの数量分類学には主観性の泥沼からついに脱出してその向こうへと前進する道が拓かれた。
キャロル・キサク・ヨーン 三中信宏・野中香方子(訳) (2013). 自然を名づける:なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか NTT出版 pp.235
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