戦前の早稲田大学の心理学教室は内田勇三郎先生の強い影響下にあったと言っていい。前述の増田惟茂先生は東大の助教授であり,ヨーロッパの留学からもどられ学会から嘱望されておられた先生であったが,不幸にして昭和8年に亡くなられたので,先生の教えを受けたのは私のほか数人の人達であったようである。私は仙台で開かれた日本心理学会大会での研究発表についていろいろと教えを受けたのであるが,それが最後であった。さて,増田先生の学風はいうまでもなく実験心理学のいわば主流派ともいうべきものであったが,内田勇三郎先生は今の言葉でいえば生粋の臨床心理学者であり医学的心理学者であった。そのためこの傾向が戦前の早稲田大学心理学教室の学風となり,その影響は筆者らを経て戦後にまで及んでいる。
(戸川行男記)
「早稲田大学心理学教室五十年史」編集委員会 (1981). 早稲田大学心理学教室五十年史 早稲田大学出版部 pp.6
PR