われわれの心理学教室の書棚にはずい分早くから,クレペリンの精神病学教科書全巻や,クレペリン派の研究者の心理学的研究機関誌とでもいうべきPsychologische Arbeiten全巻があり,クレッチメルの「体格と性格」,「医学的心理学」,「ヒステリー論」,「敏感性関係妄想」の原書があり,イェンシュの「知覚世界の構造」,べリンゲルの「メスカリン酩酊」,プリンツホルンの「精神病者の絵画」等の原書があり,ロールシャッハの「精神診断学」の原書とその検査図版があった。クレペリンの教科書や心理学的研究誌はもちろんとして,ロールシャッハ検査の図版も,戦前からそれを心理学研究室にそなえていた大学はきわめてまれであったかと思う。後に本明寛氏がロールシャッハ研究を始めたのもこれが機縁になっているかと思われるし,三島二郎教授が精神テンポの研究に着手されたのも内田先生の好みでクレッチメル派のエンケの運動学やフリシャイゼンケーラーの「個人的テンポ」が教室にあったためかと思われる。
(戸川行男記)
「早稲田大学心理学教室五十年史」編集委員会 (1981). 早稲田大学心理学教室五十年史 早稲田大学出版部 pp.7
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