前述したように,新卒一括採用が悪いのか,就活が悪いのかというのも,セットのようで,私は分けて論じないといけないと考えている。未経験者をほぼ定期的に迎え入れるという行為自体は,若年層にとってやさしい慣行だと捉えられるが,実際の学生が取り組む就活の肥大化・煩雑化,さらには企業と学生が出会えない構造こそが問題なのである。学生は毎年,入れ替わる。常に彼らにとっては初体験である。一方で,採用担当者は長年にわたり採用業務にかかわるし,異動したとしても組織に知識は蓄積される。「騙す」とまでは言わないが,学生を口説き落とすためのノウハウ構築は簡単なのである。ベンチャー企業の採用担当者からこんな話を聞いたことがある。「優秀な学生を採用しようと思ったら,やりがいのあるインターンシップを実施して,優秀な社員を貼りつける。グローバル化,新規事業,挑戦などの言葉を連呼して,経営陣に会わせれば,それでOK」。このように,ノウハウは社内に蓄積されていくのである。
常見陽平 (2013). 「就社志向」の研究:なぜ若者は会社にしがみつくのか 角川書店 pp.83-84
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