難病患者でもある作家の大野更紗さんは,その著書『困ってるひと』(ポプラ社)の中で,「社会の中で,ごく少数の人が何らかの大きなリスクを負うこと」——たとえば,「何十万人に1人と言われる難病にかかるようなこと」——を指して,「くじ」という表現を使いました。
僕は,この表現がとても気に入っています。
この社会には,様々な「くじ」が用意されていて,何千分の1であろうと何万分の1であろうと,かならずその「くじ」を引いてしまう人がいます。この「くじ」とはもちろん,先天的なものとは限りません。たとえば明日,誰かが,交通事故にあって半身不随になるかもしれないし,難病にかかってしまうかもしれない。そういった「まさか自分が当事者になるとは思いもよらなかったような『くじ』」も,一定数の人が必ずそのくじを「引かざるを得ない」ことがわかります。
そしてこの問題は,いつ何時,あなたの身の回りにも降り掛かってくるかもしれない問題なのです。くじを引く可能性は,誰にでもある——。だとしたら,社会全体で,そういった「くじ」を引いてしまった人が,極端に不幸にならずにすむ体制(社会保障制度)を確立しなければならないということは自明でしょう。
荻上チキ (2012). 僕らはいつまで「ダメ出し社会」を続けるのか:絶望から抜け出す「ポジ出し」の思想 幻冬舎 pp.153-154
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