柳田国男によるとくしゃみはもともとクソハメで,糞を食えという意味だった。それがクサメに変化し,さらにクシャミとなった。クサメについては『徒然草』におもしろい話がのっている。清水寺にお参りする年老いた尼が,「くさめ,くさめ」といいながら歩いているので,そのわけをたずねると,私が世話をした若君がいまは稚児になって比叡山に登っておられる。「ただいまもや鼻ひたまわんと思えばかく申すぞかし」と答えたという。クシャミは,当時は鼻ひと言われていた。ヨーロッパの場合と同じように,日本でも,クシャミをしたときには誰かがまじないの言葉をかけなければならないと考えていたのだろう。そういえば,今でも,クシャミをしたとき「コンチクショー」などと言っている老人がときどきいる。だれもまじないを言ってくれないから,自分で言っているらしい。なかには「クソクラエー」と言う人もいるが,「糞食め」にまでさかのぼることができる,由緒ある呪文だ。
板橋作美 (2004). 占いの謎:いまも流行るそのわけ 文藝春秋 pp.31-32
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