予測が自ら実現することを「自己成就予言」という。一例に大統領予備選挙がある。多数の候補者が立候補している選挙戦で世論調査が発表されたときに,この現象が見られることがある。有権者は自分の票を無駄にせず,勝てそうな候補者を支援したいと思う。そんなときに世論調査が発表されれば,どの候補者に投票すればいいかという指標となる。2012年,アイオワ州の共和党党員集会では,最終段階になってCNNが,リック・サントラムの支持率が前回から約10パーセント伸びて16パーセントになったという調査結果を発表した。この発表以前にサントラム優勢という結果を示した調査がほかになかったことを考えれば,統計的には外れ値だったかもしれない。しかし,この世論調査のおかげでサントラムに好意的なマスコミ報道が増え,有権者のなかにはイデオロギー的に近いミシェル・バックマンやリック・ペリーからサントラムに乗りかえる人が出てきた。やがて世論調査は自らの運命を実現した。サントラムがアイオワ州を制したのである。
ネイト・シルバー 川添節子(訳) (2013). シグナル&ノイズ:天才データアナリストの「予測学」 日経BP社 pp.237-238
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