セイラーの言う「ノーフリーランチ」とは,現実の社会でタダでありつける昼食がほとんどないように,市場で魅力的な機会を見つけて長期にわたって利益をあげ続けるのが不可能に近いことを意味する。たとえ魅力的な機会に遭遇したとしても,取引コストやリスクなどの取引上の制約があるため,実際に利用するのは難しい。フリーランチが幻に終わることは,過去の統計データが示している。
これに対して,効率的市場仮説の2つ目の主張である「価格は正しい」は,どうも疑わしい。現に,パーム株とスリーコム株の価格の歪みは,市場価格が正しいのであれば起こりえない。ある意味で同じ価値を持つ商品が異なる価格で取引されているのだから,少なくともどちらかの価格が間違っているはずだ。
市場には不均衡が存在する。バブルは壊すより,見つけるほうが簡単なのだ。これは,ベイズの国における究極の問いかけ——市場が暴落すると本当に思うなら,なぜそれに賭けないのか——が,取引や資金に制約のある現実の世界では,いつも有効であるとは限らないことを意味している。
ネイト・シルバー 川添節子(訳) (2013). シグナル&ノイズ:天才データアナリストの「予測学」 日経BP社 pp.399-400
PR