男が町中で泥棒に襲われたとする。彼は,泥棒は黒人だったと主張する。しかし,この事件を審理している裁判所がいろいろな照明のもとで何度もこのシーンを再現してみたところ,被害者が泥棒の人種を正しく確認できるのは,全体の約80パーセントにすぎなかった。彼を襲ったのがまさしく黒人だった確率はどれくらいあるだろうか?
多くの人が,確率は80パーセント,と答えるにちがいない。しかし,もっともな仮定を立てることで,正解は80パーセントよりもかなり低くなってしまう。ここでは次のように仮定しよう。人口の約90パーセントが白人で,黒人は10パーセントしかいない。事件の起きた地域の人種構成はまさにその通りになっている。片方の人種のほうがひったくりをする確率が高いということはない。被害者が,黒人を白人に,白人を黒人にまちがって認識する確率も同じである。これらを前提とすると,似たような状況で起こった100件のひったくり事件のうち,平均して26件で,被害者は犯人が黒人であったと証言するだろう。実際に黒人である10人の黒人の80パーセントつまり8人と,白人90人の20パーセントつまり18人を足して,合計26人となる。したがって,黒人と判断された26人のうち,黒人は8人しかいない。被害者が実際に黒人によってひったくられた確率は,わずか26分の8,つまり約31パーセントなのである。
ジョン・アレン・パウロス 野本陽代(訳) (1990). 数字オンチの諸君! 草思社 pp.171-172
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