イェール大学の心理学者ジョン・バーが言うには,1970年代後半にミシガン大学の大学院生になった当時は,人間の社会的知覚や判断だけでなく,行動さえもが,意識的で意図的なものであると,ほぼ誰もが決めつけていたという。この思い込みを脅かすような主張はすべて嘲笑の的となり,バーも,専門家として成功した近しい親戚に,人間は自分が気づかない理由から行動することを示した初期のいくつかの研究について話をしたところ,そのような反応が返ってきた。その親戚は,それらの研究が間違っている証拠として自身の経験を持ち出し,自分に気づかない理由で何らかの行動をとっているような瞬間を,一度たりとも意識したことはないと言い張ったのだ。
バーいわく,「わたしたちはみな,自分の魂の指揮者は自分であって,自分がその責任を負っているのだという考え方を尊重し,そうでないときにはとても恐ろしい感情を抱く。それが精神病というものであり,それは,現実から乖離して自分を制御できないという感情であって,誰にとってもきわめて恐ろしいものである」。
レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.13
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