音素修復には驚きの特徴がある。音素修復は聞こえた単語の文脈に基づいておこなわれるため,文の冒頭で聞こえたと思った音が,文の最後に来る単語によって影響を受けることがあるのだ。
たとえば別の有名な実験では,被験者に“It was found that the *eel on the axle.”(「*は車軸に取りつけられていた」,星印は咳払いを表す)という文を聞かせたところ,被験者は“wheel”(車輪)という単語が聞こえたと報告した。しかし,“It was found that the *eel was on the shoe.”(*は靴に取りつけられていた)という文を聞くと,“heel”(かかと)という単語が聞こえた。同様に,最後の単語を“orange”(オレンジ)に替えると,“peel”(皮)と聞こえ,“table”(テーブル)に替えると“meal”(料理)と聞こえたのだ。
いずれのケースでも,被験者の脳に送られてくるデータには,“*eel”というすべて同じ音が含まれている。脳はその情報を辛抱強く保持しつづけ,文脈によるさらなる手がかりが来るのを待つ。そして,“axle”“shoe”“orange”“table”という単語が聞こえたあとで,そこに適切な子音を当てはめる。それらがようやく意識的な心に伝えられるため,被験者はその修正作業には気づかず,咳払いによって部分的に覆い隠された単語も,正確に聞こえたと完全に確信するのだ。
レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.65-66
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