わたしたちは,相手の目を見る時間を自分の相対的な社会的地位に合わせて機械的に調節するが,それをふつうは,自分ではそうしていると気づかずにやっている。ちょっと信じられない話に思える。どんな相手でもじっと目を見つめようとする人もいるかと思えば,CEOと話すときでも,あるいは近所のスーパーでバッグに鶏もも肉のパックを放り込もうとしている子供に話しかけるときでも,つねに視線を逸らしがちな人もいる。では,どのようにすれば,凝視行動を社会的優越性と関連づけられるだろうか?
それは,しゃべっている相手を見つめる全体的な傾向ではなく,聞き手と話し手の役割を切り替えたときに自分の行動をどのように調節するかにある。その行動は1つの数値的指標として特徴づけることができ,それを使って心理学者は注目すべきデータを導き出している。
その指標を計算するには,自分が話しているときに相手の目をどれだけの時間見ているか,その割合を求め,それを,自分が話を聴いているときに同じ相手の目を見ている時間の割合で割る。たとえば,自分と相手のどちらが話しているかに関係なく,同じ時間だけ目を逸らせば,この比は1.0となる。しかし,相手の話を聴いているときよりも自分がはなしているときのほうが,より多く目を逸らす傾向があれば,この比は1.0より小さくなる。聴いているときよりも話しているときのほうが目を逸らす時間が短ければ,1.0より大きくなる。
この比は重要な意味を持っていることが,明らかとなっている。これは「視覚的優越性比率(visual dominance ratio)」と呼ばれ,社会的優位階層のなかで自分が会話の相手に対してどのような位置にいるかを反映している。相手に比べて社会的優位性が高い人では,視覚的優越性比率は1.0近くか,またはそれより大きい。1.0より小さいと,優位階層のなかで低い位置にいることがうかがわれる。要するに,視覚的優越性比率が1.0かそれより高い人はおそらくボスであり,0.6近辺の人はおそらく部下であるといえる。
レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.175-176
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