私はいまも,またこれまで一度も,白人と黒人の社会的政治平等を何らかの形で実現することには賛成していない。……白人と黒人とでは身体的な違いがあり,そのため,2つの人種が社会的政治平等のもとでともに暮らすのは永遠に不可能だと思う。……そして,私も他の人と同じく,白人に高い地位を与えることに賛成である。
これは,エイブラハム・リンカーンが1858年にイリノイ州チャールズタウンでおこなった討論のなかで発した言葉だ。リンカーンは当時としては信じられないほど進歩的だったが,それでもなお,法的な面は別として社会的な人種の分類は永遠に続くと考えていた。
だがそこから人類は進歩してきた。今日多くの国では,真剣に国政に携わろうとする人のなかで,リンカーンのような考え方を唱える人物か,あるいは少なくとも,国民の権利に否定的だとみなされそうな人物を思い浮かべるのは難しい。今日の文化は十分に進歩し,ほとんどの人が,カテゴリー的な身元から推測した特性を理由に,故意に誰かの機会を奪うのは,間違っていることだと感じられるようなレベルにまで達している。しかし,こと無意識の偏見については,理解の手がかりしかつかめていない。
レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.232
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