ここまで説明してきた例から察するに,どうやらわたしたちは,自分の感情を理解できていないことが多いらしい。それなのに,自分の感情は理解できているとふつうは考えている。さらに,なぜこれのように感じるのかを説明してくれと言われると,ほとんどの人は,ちょっと考えてから苦もなくその理由を説明する。自分が思っているのと違う感情かもしれないのに,どこからその理由を見つけてくるのだろうか?そう,でっち上げるのだ。
その現象を実証した1つの興味深い実験として,被験者に,女性の顔を写したトランプサイズの写真を右手で1枚,左手で1枚持って見せ,より魅力的な方を選ばせた。続いて2枚の写真を裏返し,選んだ方の写真を被験者の方へ差し出した。そして被験者に,その写真を手にとって,それを選んだ理由を説明するよう指示した。その後,写真を替えながら計10回ほど同じことを繰り返した。そのうちの何回かは,手先の早技を使って2枚の写真をすり替え,より魅力的でないと判断したほうの写真を被験者のほうへ差し出した。すり替えたことを被験者が見抜いたのは,およそ4回中1回だけだった。
しかし本当に興味深いのは,見抜けなかった75パーセントのケースでどうなったかである。実際には気に入らなかったほうの顔を,なぜ気に入ったのか尋ねると,「笑顔がまぶしい。バーにいたらもう1人よりもこの人のほうを口説く」とか,「イヤリングが好きだ」「おばに似ている」「もう1人よりも魅力的だと思う」といったようなことを答えた。実際には気に入らなかった方の顔なのに,その顔を気に入った理由を,何度も繰り返し,自信たっぷりに説明したのだ。
レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.282-283
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