「作話」という言葉は,記憶の空白を,真実であると信じる嘘の話で埋め合わせることを指す場合が多い。しかし人間は,自分の感情に関する知識の空白を埋めるためにも,作話をおこなう。誰もがそうした性向を持っている。わたしたちは自分自身や友人に対して,「なぜあの車に乗っているのか」「なぜあの男が好きなのか」「なぜあのジョークに笑ったのか」といった問いかけをする。研究によれば,わたしたちは,そうした問いかけに対する答えを自分でわかっていると考えるものだが,実際にはわかっていないことが多い。自分の考えを説明するように言われると,ある種の内省のように感じながら真実を探す。しかし,自分が何を感じているのかがわかっていると考えていながら,その内容も,その無意識の源も,わかっていないことが多い。そこで,真実ではない,あるいは一部しか正確ではないが,もっともらしい説明を考えだすのだ。
レナード・ムロディナウ 水谷淳(訳) (2013). しらずしらず:あなたの9割を支配する「無意識」を科学する ダイヤモンド社 pp.285-286
PR