このパラドックスに対して最も当たっていると思われる説明は,健康にとって問題になるのは絶対的な収入や生活水準ではなく,相対的な収入と社会的地位であるというものである。収入が社会的地位と関係するような場合,国内における比較と同様,収入はまた健康とも関係してくる。収入が,人々の社会階層におけるポジションとほとんど,あるいはまったく関係ない場合,(国と国との比較の時のように),収入から健康格差が生じることはまずない。やはり,心理社会的な道筋が重要なのだ。当人たちが相対的な収入や社会的な地位について何とも思っていないとしたら,相対的な収入が健康と関連するとはとても信ずることができないではないか。
こういう見方が妥当であることは,格差が少なく,貧富の差が小さい社会ほど健康状態が良い傾向があるという確かめられている。先進国で言えば,平均寿命が最も長い国は最も格差の少ない国であり,それは最も経済的に恵まれた国ではないのだ。今やその証拠が,先進国と,先進国とまでは言えない国の関係において山ほど集まっている。
リチャード・ウィルキンソン 竹内久美子(訳) (2004). 寿命を決める社会のオキテ—シリーズ「進化論の現在」— 新潮社 pp.23-24
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