あなたが,ワイオミング州の岩の上にすわって,地面の穴をみているとしよう。10,20,30分は,何もたいしたことは起こらないが,そのとき突然(流れが激しくひと息に起こって)湯が,空中に30メートル以上噴出したとしよう。数秒のうちに噴出はおわり,そのあとは何も(明らかに前と同じように)おこらない。1時間待つが,やはり何もたいしたことは起こらない。これがあなたの経験だ。つまり,1時間半の退屈の中でほんの数秒続いた1回きりの驚くべき爆発だ。あなたは「たしかに,これは,ユニークで反復不可能な出来事だ!」と考えたくなるかもしれない。
それでは,この有名な間欠泉はなぜオールドフェイスフル[信頼に足る古老]という名で呼ばれているのだろうか。実際,この間欠泉は,平均して65分に1回ずつの噴出を年々歳々繰り返しているのだ。「カンブリア紀大爆発」の「形態」(その「突然の」開始と「突然の」終了)は,「ラディカルな偶発事件」という主題にとって<まったく>何の証拠にもならない。しかし,グールドは,それが証拠になると考えているようだ。彼は,私たちが生命テープをリプレイしたら,次にもう1つの「カンブリア紀」大爆発を得ることはできないと考えているようだ。しかし,もしそれが本当だとしても,証拠のひとかけでも示したことには未だならない。
ダニエル・C・デネット 山口泰司(監訳) (2001). ダーウィンの危険な思想 生命の意味と進化 p.404
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