樹木が茂ったサバンナへと向かったヒトとは対照的に,チンパンジーとゴリラは森の奥深くにとどまった。そこでは,林冠と地面を行き来する効果的な手段を見つける必要があったので,チンパンジーらは四つ足で木の幹を垂直方向に移動することにしたが,そのような形の木登りに骨格を適応させたため,日本の後肢をまっすぐ伸ばす歩き方を永遠に失ってしまった。木のあいだを移動するのに,チンパンジーとゴリラは幹を登る縦の動きを地面を移動する横の動きに変え,文字どおり地面を水平に登る——こぶしを地面につけて歩く「ナックルウォーク」である。つまりナックルウォークは進歩であって,チンパンジーの祖先の歩き方でもなければ,初期人類の祖先の歩き方でもなかったというわけだ。
クライブ・フィンレイソン 上原直子(訳) (2013). そして最後にヒトが残った 白楊社 pp.56-57
(Finlayson, C. (2009). The Humans Who Went Extinct: Why Neanderthals Died Out and We Survived. Oxford: Oxford University Press.)
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