どのように入手したかはさておき,ともかく初期人類が動物の死骸から肉や骨髄や脂肪を摂取していたことに疑いの余地はなさそうだ。だが,どれだけ肉に頼った食生活をしていたかとなると,それはまた別の問題になる。なぜなら,大型哺乳類の骨は条件さえ整っていれば化石として形をとどめるが,それ以外の食料候補である植物や虫の死骸は時の経過とともに腐敗し,姿を消しやすいからだ。解体場の遺跡からは石器と草食動物の骨が見つかる。それによって「肉を食べる人類」という偏ったイメージが大きく膨らんだのだろうし,また私たちの目が極端に石に向けられたことから,人類にとって重要な歴史区分が「石器時代」と名づけられるまでになった。
新たな遺跡の発見により,肉食や石器製作以外で,太古の人類が環境をどのように利用していたのかが垣間見られることもある。たとえば,イスラエルにある78万年前のゲシャー・ベノット・ヤーコブ遺跡では,食用の木の実,くぼみのあるハンマー,物を打つための台という取り合わせのユニークな出土品が報告されている。また,この遺跡では木片や植物素材も豊富に見つかっており,どの程度人類が植物を活用し消費していたかについて,期待できそうな手がかりを与えてくれている。ここからもわかるように,先史時代の人類の食生活において獣肉の重要性が明らかに誇張されてきたのは,たんに木の葉や枝よりも骨の方が残りやすいからなのである。
クライブ・フィンレイソン 上原直子(訳) (2013). そして最後にヒトが残った 白楊社 pp.83-84
(Finlayson, C. (2009). The Humans Who Went Extinct: Why Neanderthals Died Out and We Survived. Oxford: Oxford University Press.)
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