遺伝学の研究から,もうひとつ明確に浮かび上がってくる事実がある。それは,アフリカ人の集団は遺伝的に最も多様であること,つまり,最も長い時間をかけて突然変異を蓄積してきたということだ。ある特定の突然変異は遺伝子マーカーという目印になるので,それを利用すれば,現在では離れた場所にいる集団も過去にはつながりがあったことがわかり,さらには,集団が分裂した年代も推定することができる。また総合的な研究結果からは,8万年以上前に蓄積された遺伝的多様性が現在のアフリカ人集団の中でしか見られないこともわかっている。アフリカ人集団には見られない突然変異が起きたのはそれ以降のことであり,そこから,世界各地への移動は8万年前以降に行われたと考えることができる。
クライブ・フィンレイソン 上原直子(訳) (2013). そして最後にヒトが残った 白楊社 pp.110
(Finlayson, C. (2009). The Humans Who Went Extinct: Why Neanderthals Died Out and We Survived. Oxford: Oxford University Press.)
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