興味深いことに,現生人類が世界に拡散しはじめた時期(8万年前以降)と,ネアンデルタール人以外の人類が中東を放棄したと思われる時期はなぜか一致している。先述のとおり,気候は8万年前を過ぎたころからいくらか寒くはなったが,7万年前と4万7000〜4万2000年前の2度にわたる厳寒・乾燥期を除いては比較的暖かさを保っていた。また,サハラ砂漠東部,ネゲヴ砂漠[現在のイスラエル南部],アラビア半島に影響を及ぼした異常な多湿期も,8万年前以降は影をひそめたようだ。つまり,北東アフリカから東南アジアにかけて人類の地理的拡大が起きた時期は,以前よりも乾燥していたものの,とくに例外的と言えるような気候ではなかったのだ。温暖でも湿潤でもなかったし,寒さの厳しい乾いた時期もあるにはあったが,限られたものだった。
クライブ・フィンレイソン 上原直子(訳) (2013). そして最後にヒトが残った 白楊社 pp.124
(Finlayson, C. (2009). The Humans Who Went Extinct: Why Neanderthals Died Out and We Survived. Oxford: Oxford University Press.)
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