ビーチコーミングの能力に長けたカニクイザルは,私たちにもうひとつの教訓を与えてくれる。カニクイザルの仲間たちは,東南アジアの広い地域に散らばる数多くの島々に生息しているが,そのなかには,ニコバル諸島[アンダマン諸島の南]やフィリピン諸島など,大陸とつながったことのない島も含まれている。どうやらサルたちは,東南アジアにあるたくさんの大河から,意図せぬまま天然のいかだに乗って旅立ち,海流に漂いながら島と島とのあいだを移動したようなのだ(船乗りとしての腕前は,マングローブ林などの川辺や海岸の林を主な生息地とする習性に関わりがあるらしい)。サルたちは何度となく流され,そうした偶然の繰り返しによって,海の向こうの島々へと広がっていった。
私の知る限りでは,カニクイザルが船をつくる方法を考えたと説く者は1人もいないし,自ら航海術を磨いたとも思えない。サルたちが遠い島々にたどり着くことができたのは,漂流する天然のいかだに頻繁に近づく機会を与えた習性と,偶然のめぐり合わせがたまたま重なったからにすぎない。それにもかかわらず,人類がそうした島々やオーストラリアに広がったとなると,その大移動にはどうしても船と航海術が必要だったということになってしまう。
クライブ・フィンレイソン 上原直子(訳) (2013). そして最後にヒトが残った 白楊社 pp.128-129
(Finlayson, C. (2009). The Humans Who Went Extinct: Why Neanderthals Died Out and We Survived. Oxford: Oxford University Press.)
PR