まとめると,私たちがもっているネアンデルタール人と現生人類についての考古学的,遺伝学的知識と,世界各地へまばらに広がった人類集団の生態学的背景を考え合わせるならば,双方のあいだに重大な遺伝子混合はなかったようだ。たとえ実際に交配したことがあったとしても,現在入手できる証拠からは,ネアンデルタール人が私たちの遺伝子プールに重要な貢献をしなかったことが推測できる。またいずれにせよ,ネアンデルタール人がまだ多くいた時代のヨーロッパへ進出した人類は,その遺伝子の痕跡を現代のヨーロッパ人にほとんど残すことができなかった。そうであれば,現生人類(もしかしたら早期現生人類も?)とネアンデルタール人のなかに交配したものがあった場合でも,その後ネアンデルタール人が絶滅し,先駆的な現生人類もほぼ姿を消したため,手がかりが失われてしまったという可能性もある。
クライブ・フィンレイソン 上原直子(訳) (2013). そして最後にヒトが残った 白楊社 pp.193
(Finlayson, C. (2009). The Humans Who Went Extinct: Why Neanderthals Died Out and We Survived. Oxford: Oxford University Press.)
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