ユーラシアの現生人類たちが樹木から全面的に開放されたのには,2つの生態学的な理由が考えられる。ひとつは,活用する手段さえ見つかれば,ユーラシアのツンドラステップは食料の貯蔵庫と言ってよかったこと。もうひとつは,熱帯地方では制限要因となった水に,それほど行動を制限されなかったことだ。ツンドラステップでは,トナカイ,ステップバイソン,ウマなど,多くの大型哺乳類が巨大な群れをなしていた。こうした資源を利用できるものはそれまでいなかったが,ツンドラステップの周縁部にいた人類は茂みからの奇襲攻撃を利用して,これらの動物を狩ることができた。とはいえ,周縁部では森林の恩恵もまだ受けることができたので,季節によって移動する気まぐれな動物の群れに完全に依存することはなかっただろう。つまり,開けた平原と森林の境界に暮らすことは,最も豊かで実り多い場所に生きることだったのだ。
クライブ・フィンレイソン 上原直子(訳) (2013). そして最後にヒトが残った 白楊社 pp.212
(Finlayson, C. (2009). The Humans Who Went Extinct: Why Neanderthals Died Out and We Survived. Oxford: Oxford University Press.)
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