人類の歴史においてよく知られる画期的な出来事の多くは,手を貸さずとも自己触媒的に広がっていき,はじまったが最後,後戻りはきかなかった。だが,たしかに現実はそのように進んだかもしれないが,理論的に必ずそうなるというものではなかったはずだ。たとえば,農耕の発展もその一例だろう。1万年前を過ぎると以前よりも気候が温暖となった。それにより,狩猟採集民としての生活を代償に世界各地で農耕・牧畜が飛躍的に広まり,人口が急増した。しかし,もし気候がもう一度悪化していたら,ここで生まれた技術も過去の多くの例と同様に廃れることもありえたのだ。
クライブ・フィンレイソン 上原直子(訳) (2013). そして最後にヒトが残った 白楊社 pp.218
(Finlayson, C. (2009). The Humans Who Went Extinct: Why Neanderthals Died Out and We Survived. Oxford: Oxford University Press.)
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