アフリカ,インド,オーストラリアの熱帯地方では,とくに氷期に対応する必要がなかったため,それまで受け継いできた人口密度の低い狩猟採集生活が続けられた。ところが辺境に暮らすグラヴェット文化人の子孫たちは,厳しい環境下のなかで自分たちのそれまでのやり方や伝統をことごとく失い,何万年ものあいだ通用していた生活様式から脱することに力を注いだ。その結果,彼らはそれまでにない危険な道具を手に入れることになる——温暖な気候下ではまずありえないことだったが,彼らは「余剰物」を生み出す方法を発見したのだ。それによって人口は歯止めなく増え続け,寒冷化の影響で鈍くなることはあったものの,それもほんの短い期間にすぎなかった。こうした習慣を受け継いだソリュートレ文化人やその同時代人は,地球が温暖化しはじめると,その受け継いだ遺産を徹底的に利用することになった。
クライブ・フィンレイソン 上原直子(訳) (2013). そして最後にヒトが残った 白楊社 pp.253
(Finlayson, C. (2009). The Humans Who Went Extinct: Why Neanderthals Died Out and We Survived. Oxford: Oxford University Press.)
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