アークムが生まれた1769年には,化学は多くの面で錬金術と大差がなかった。科学者が自分たちの扱う材料に与えた名前は奇妙で,人を面食らわせるものだった。例えば「砒素のバター」,「硫黄の肝臓」。当時の燃焼理論にとって中心的なものは,燃素(フロギストン)と呼ばれた,まったくの架空の物質だった。それは無色,無臭,無重量の物質で,あらゆる可燃物の中に存在すると信じられていた。この物質を含むものは「フロギストン化」されたものと呼ばれた。それは燃やすと,「脱フロギストン化」されると言われた。ラヴォアジェが酸素を使って燃焼の正しい理論を発表するまでは,分別のある多くの者もフロギストン説を信じていた。さらにラヴォアジェは,古臭い錬金術的名称を一掃し,化学を現代科学の1つに統合した。ラヴォアジェはまた,ワインのアルコールを,酸素を満たし水銀の上に置いた釣鐘型のガラス器の中で燃やしてアルコールの成分を最初に分析しようとした点で,アークムの先駆者である。ラヴォアジェはオリーヴ湯を水素と炭素に分解した。また,アークム同様に果実に関心を抱いていた。ラヴォアジェは1786年に発表した有機酸の性質に関する研究報告の中で,石榴,目木,サクランボ,カレンズ,桃,杏,梨から取った酸を分析した。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.29-30
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