アークムの意見では,英国の食べ物の主な問題は,素材自体ではなく,英国の料理人の素材の扱い方だった。アークムは,英国人が食事はさっさと済ませ,「時間は無価値かのように酒に長時間」費やして無駄にする傾向を避難した。彼はそのことをフランスと比較し,フランスでは「いい食事」が「人生の大目的」だと言っている。アークムのようなコーヒー党には,コーヒーの淹れ方の基本も知らない人間のあいだで暮らすのは惨めなことだった。アークムの信ずるところでは,コーヒーは「体中に健康的な満足感,安らぎ,このうえない幸福感を漲らせる」。ところが英国のコーヒーは,彼を惨めな気持ちにするだけだった。英国でコーヒーとして通っているものは,苦い「色付き水」とほとんど変わらない,と彼は苦情を言った。それは,至る所の乾物屋で,燃やしたエンドウ豆とインゲン豆で作られた「偽物コーヒー」が売られていたことを考えると驚くには当たらない。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.37-38
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