混ぜ物工作のいくつかは狡猾だった——例えば「P・D」,すなわちペパー・ダスト。それは胡椒(ペパー)の倉庫の床から掃き集められた「汚いゴミ」で,挽いた黒胡椒が混ざっていることが多かった。それよりもっとひどいのは「D・P・D」として知られていたものだった。「ダスト・オヴ・ペパー・ダスト」の略である。胡椒の倉庫の床から掃き集められたゴミの中で最も汚れた不潔なものである。この欺瞞には,細工らしい細工はなかった。他方,もっと凄まじい混ぜ物工作の多くでは,実に入り組んだ細工が施された。本物の干した黒胡椒の実——多くの消費者が胡椒の実そのものに混ぜ物を施すのは不可能だと誤って考え,挽いたものよりいいと信じて買ったのだろう——が,「見せかけの胡椒の実」で増量されていることがあった。それは,熟練した職人の手によるものだろう。まず,黒っぽい「固形油粕」(亜麻仁油を搾り取ったあとの残留物)を普通の粘土と,いくらかの唐辛子と一緒にした(消費者が簡単に騙されるように,「小さな固い種の歯ごたえ」の感じを出すために)。それから,その練り混ぜたものを篩に押し当てて出してから樽の中で回し,小球にした。こうした偽物の「胡椒」の小さな球を作るのは非常に骨が折れたに違いない。本物の黒胡椒の実に多くの混ぜ物を加えると疑念を招く恐れがあったが——16パーセントが標準だった——それでも欺瞞者たちが混ぜ物工作で得をしたのは明らかだ。労働の賃金は安く,スパイスは高価だった(胡椒1ポンドの税金は2シリング6ペンスだったが,1823年に引き下げられた)。そして,その作業を行う者には不足していなかった。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.47-48
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