ほかの古代のワインの添加物は,もっと実際的な目的を持っていた。ワインの大きな問題は,たちまち悪くなってしまうということだった。ローマ時代のワインの多くは,本質的にアルコール入りのフルーツジュースだった。それには例外もあった——詩人のユウェナリスは,執政官が長髪だった時代以来,数世紀にわたって瓶の中に寝かしてきたヴィンテージ・ワインについて書いている。しかし,そうした熟成したワインは,まったくの例外だった。ボージョレ・ヌーボーはたいがいの古代ローマのワインに比べると立派に成熟している。古代のワインがいかに早く質が劣化したかについては,3世紀にローマの法学者ウルピアヌスが前の年に造られたワインを「古いワイン」と書いている事実から,幾分窺い知ることができる。人々は地中海の気候の中でワインを長持ちさせることのできるものならなんでも飛びついた。それがワインの質にどういう影響を与えるかについて,ほとんど考慮せずに。特にギリシアのワインには樹脂が混ぜられていた——現代のレツィーナ(ギリシア特産の松脂入りワイン)の古代版である。ワインを入れておいた陶器の両取っ手付きの壺は多孔性のものが多く,中に空気が入り,ワインを酸化させた。ワイン醸造業者は壺の内側が樹脂で覆われていればワインが長持ちすることに気づいた。そして,発行前の葡萄汁だけにではなく,ワイン自体にも,粉状のものであれ,ねばねばした液状のものであれ,少量の樹脂を加えると,もっと効果があることにも気づいた。その結果,ワインを飲む者はさまざまな種類の樹脂の通になったが——シリアの樹脂はアッティカの蜂蜜に似ているといわれた——樹脂の第一の目的はワインを長持ちさせることだった。現代でも,質の悪いレツィーナを飲むと,木材の防腐剤キュープリーノールに漬かっている気分に,ちょっとなる。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.71-72
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