紀元1世紀,コルメラは地主として次のように記している。「葡萄汁を鉛の壺に入れ,その4分の1(ある場合には3分の1)を沸騰させて蒸発させる者もいる」が,「半分蒸発させれば,もっとよいサパになるのは否定できない」——そして,さらに多くの鉛を含んだものになるのは。農業について書いたカトーは,ワイン造りのあいだに,その非常に有害な煮詰めたものの40分の1を使うことを勧めた。鉛が次のような症状を引き起こす毒であるのを知っていたなら,そんなことはしなかっただろう——頭痛,疲労感,発熱,不妊,食欲喪失,ひどい便秘,耐え難い疝痛,言語障害,失聴,盲目,麻痺,四肢の制御不能,そして,ついには死。鉛入りのワインはローマ人に恐ろしい影響を与えたに違いない。蔓延した鉛による病気が,非常に多くの裕福なローマ人が生殖能力を失った原因の1つではないかと,ある歴史家は言っている。しかし彼らは,それは健康に良いと信じて飲み続けた。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.73-74
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