明礬——アルミニウム硫酸塩を他の硫酸塩(カリウムまたはナトリウム,アンモニウム)と結びつける硫酸複塩のグループに与えられた名称——は,無数の用途を持つ収斂剤,止血薬,吐剤である。中世以来,織物工業においては,染料を繊維に固定させる「媒染剤」として重要な成分だった。また,脱臭剤として,特にひげ剃りの際の止血薬として外用に使われてきている。旧式の紳士用化粧品の会社,ジョージ・F・トランパーでは,切り傷を塞ぐための「明礬の塊」をいまだに売っている。明礬はまた,調理でも多く使われている。それは,保存料として,ピクルスやマラスキーノ酒漬けのサクランボをカリッとさせたりゼラチンを固くしたりするファーミング剤として,小麦粉をより良くするものとして,漂白剤として使われてきた。パン屋はそれを漂白剤としてルネサンス期以来使ってきた。相当の量が使われるようになったのは18世紀以降である。
パンに明礬を使用するというのは,白パンの持っていた「威光」を考えた場合のみ意味を成す。長いあいだ貧しい人々は,金持ちが食べていた最上質の白い小麦パンを食べることに慣れていた。白パンは紳士階級のものだが,黒パンは自作農の食べ物で,それを食べる者は社会的に劣ることを示していた。17世紀の社会の観察者の何人かは,極貧の階級の者が市に行き,ライ麦パンは沽券に関わるとして鼻であしらい,最上の白い小麦で出来たパンを探す様子を書いている。ほとんど誰も,黒パンを食べるような人間になりたがらなかった。だがいつの時代であれ,全粒小麦粉パンに味方する例外的な賢人がいる。1683年,非国教徒でベジタリアンのトマス・トライオンは,消化によい自然食品だとして全粒小麦粉パンを弁護した。そして白パン嗜好を,「健康に有害で,自然と理性に反する」として攻撃した。誰も耳を貸さなかった。白パンに対する嗜好は続き,それと共に明礬の使用も続いた。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.104-105
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