労働者は土曜日の夜に買い物をせざるを得ないため,食べられないものを買わせられるおそれが増えた。闇の中では,売られているものの質を知るのは難しく,呼び売り商人はそれを利用した。魚売りは「雑魚」を土曜日の夜まで取っておき,黒ずんだ嫌な臭いのする鯖を蝋燭の光で新鮮で新しいもの見せた。イングランド北部では,何人かの行商人は魚の鰓に赤ペンキを塗りさえした。赤い鰓は新鮮である印だったからだ。いかがわしい「化粧」があまりにも見え透いていたに違いない。傷んだ肉とチーズに関しては,「磨き」として知られた手の込んだテクニックが使われた。腐敗した表面を新鮮なもので覆ったのだ。古い肉は新鮮な脂肪の層で,古いチーズのカットした表面は新鮮なスイート・バター(新鮮なクリームで作る無塩バター)で「磨かれ」た。同様に,土曜日の夜のトリックのいくつかは,さらに巧妙だった。マンチェスターでは,工場労働者が週末のご馳走としてココナツを買うことがあった。ほとんどの消費者は,まずココナツを振って,中が乳状液で一杯で,新鮮なことを確かめずには,そうした贅沢品に金を使おうとは思わなかった。しかし,ずるい売り手は,乳状液のない古い腐りかけたココナツに孔をあけて中に水を満たし,ココナツの殻の茶色に合うよう,黒ずんだコルクで孔を塞いだ。もう1つの巧妙な誤魔化しは,オレンジを茹でて重くし,光らせるというものだった。客がそれを家に持って帰って剥くと,中の袋が手の中でばらばらになり,インチキがわかってがっかりする時には手遅れだった。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.135-136
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