驚くには当たらないが,英国の新聞には菓子で中毒したという記事が頻繁に載った。1847年9月,3人の大人と8人の子供がメリルボーン救貧院に運ばれた。「色付きの菓子をいくつか食べた後で嘔吐と吐き気に襲われた」のだ。翌年,『ノーサンプトン・ヘラルド』は,数人がおおやけの宴会で,デザートのブラマンジェの彩りに添えられた緑の砂糖をまぶしたキュウリの飾りを食べて中毒になったと報じた。その後,1人が死んだ。その翌年,マールボロの数人の子供が,「立派なケーキ」と,飾りの「フクシアを模して甘いパスタで作られた緑の花」を食べたあとで猛烈な吐き気に襲われた。あるフランスの科学者は,英国では毎年毒入り菓子を食べて何人かの子供が死ぬと,いかにもフランス人らしく当惑しながらコメントした。そんなグロテスクなほどに食用に適さない食べ物をわざわざ作る食文化には,どこかおかしいところがあったのは言うまでもない。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.148-150
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