アメリカの食べ物は,英国の食べ物が19世紀に粗悪になったのと同じように,急速に質が落ちた。どちらの場合も理由は非常に似ていた。アメリカはほぼ完全な農業社会から工業国についに変わりつつあった。大規模産業が発達すると共に新しい技術が生まれた——食べ物に手を加える新しい手段と,それを国内で売る新しく強力な市場が出現したのだ。1870年代に,大手の製造業者は産業化学者を雇って,欺瞞の新しい補助手段——脱臭剤,染料,香味料,ふにゃりとした食品をパリパリしたものにする材料,固い食品を柔らかくする材料——を考え出した。その結果,消費者は自分の食べているものがなんなのか,さっぱりわからなくなった。1880年代までには,「食料供給の全システムが違った様相を呈するようになり」,次第に都市化してきた大衆は安くて新しい加工食品をしきりに求めた。1892年,事態が非常に悪化したので,上院議員のアルジャノン・S・パドックは「悪魔がこの国の食品を牛耳っている」と嘆いた。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.194
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