残滓牛乳事件は,幼児の死亡率が高いという,当時の社会の大きな不名誉の一部だった。1870年から1900年まで,アメリカにおける3人の死者ごとの1人は5歳以下の子供だった。幼児の死亡者の38パーセントから51パーセントが感染症だった。そのうちの半分は下痢の感染症で,粗悪な牛乳を飲んだことに,とりわけ関連していた。下痢による死亡者の数は,牛乳(すでに汚染されている場合が多かったが)の中のバクテリアが急速に増えた7月と8月にピークに達した。幼児の高い死亡率の原因について,多くの説がある。貧困,教育の不足,人口過密,下水の不備。1909年,ある医師は,「不潔なおしゃぶり,厚着,ピクルス」が原因ではないかと言った。しかし,重要な要因は粗悪な牛乳だった。赤ん坊を死なせた原因は貧困自体ではなく,貧しい母親が安くて質の悪い牛乳を騙されて買うことだった。幼児の死亡率が20世紀の最初の20年間についに下がったのは,牛乳がやっと衛生的なものになった直接の結果だった。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.199-200
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