アメリカ人が当初マーガリンに敵意を抱いていたのは,マーガリンが発明された時の状況に原因がある。1886年,上院議員のパーマーは,マーガリンは1870年のパリの包囲の時に生まれたと,けちをつけた。「家庭のペットが食べ物として市場で売られた」困窮の年に。実際にはマーガリンはその前年,1869年に特許を与えられた。1860年代には,ヨーロッパでは食用の脂肪が不足していた。ナポレオン3世はバターの代わりになる安いものを探した。フランスの化学者イポリート・メージュ=ムーリエ(1817〜80)が,その答え——牛脂を乳状化する新しい方法——を見つけた。最初彼は,牛脂を牛の刻んだ胃袋と一緒に「蒸解」して油にした。次にその油を牛の刻んだ乳房と,それに加えいくらかの重曹と一緒に乳状化した。メージュ=ムーリエは,その結果できた牛の脂肪のペーストは非常に貴重で,鮮やかな乳白光を発していたので,それをギリシア語の真珠(margaron)にちなんでオレオマーガリンと名付けた(「オレオ」は「油」の意)。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.213-214
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