アメリカでとうもろこしから作られた葡萄糖は,マーガリン同様,比較的新しく出現したもので,多くの者は,マーガリンの場合と同じように,不気味な新案物として非難した。ジョージ・エインジェルは,葡萄糖は「この数年のあいだに途方もない大きさになった恐るべき巨人」だと毒づいた。規模の問題は否定のしようもなかった。1870年代までには,葡萄糖は200万ドル産業になっていた。しかしエインジェルは,葡萄糖は健康に良くないとも主張した。その点はさほどはっきりしていなかった。ワイリー自身,葡萄糖に対して複雑な気持ちを抱いていた。彼は葡萄糖を本質的には健全な国内産だとして歓迎し,1881年,『月刊ポピュラー・サイエンス』に次のように書いた。「いまやアメリカの新しい王であるトウモロコシは,必要不可欠ではないウイスキーだけではなく,パン,肉,砂糖をも供給してくれる」。他方,彼はさまざまな砂糖を分析した結果,葡萄糖がそれ自体としてではなく,混ぜ物として広く使われているのを知った。彼は1881年に書いた上述の記事の中で,蜂蜜の例を挙げている。当時の液状の「蜂蜜」の多くは,実際には巧妙に偽装した葡萄糖で,蜂蜜本来の匂いを出すために,ほんの少し本物を加えてあった。ワイリーは,偽蜂蜜の製造者が欺瞞を隠すのに非常に骨を折っているのを知った。ときおり彼らは,葡萄糖の不自然な清潔さで正体がばれぬよう,「欺瞞工作のために蜜蜂の羽,脚等の残骸」を入れさえした。恥知らずの欺瞞者たちは,人口の蜂の巣を作り,それを葡萄糖で満たし,巣室にパラフィンで蓋をした。ワイリーの書いたその記事に従えば,「ある創意に富むヤンキーは」この邪なやり方で特許を取ろうとさえした。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.223-224
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