ナチ体制は新しさを売り物にしていたが,相も変わらぬ昔ながらの奇妙な代用品を提供した。新しかったのはプロパガンダだけで,それはナンセンスの極みに達した。ある時ナチは,レモンが払底してしまったので,大黄で代用すると発表した。共に酸っぱいということ以外,レモンと大黄の共通点を見出すのは難しい。魚の身の上に大黄の茎を絞って汁を出すなどということはできない。また,大黄の薄切りを飲み物の中に入れることもできない。大黄からレモネードを作ることもできない。皮を使うこともできない。大黄に皮はないからだ。その点になれば,どうやっても大黄をレモンの代わりに使うことなどはできないのだ。そんなことにはお構いなく,ナチの広報機関はレモンを大黄で代用したのは大成功だと公言した。なぜなら,レモンは輸入品だが大黄はそうではないからだ。「ドイツの土を通してのみ最良の霊気は血に伝えられる……したがって,われらはレモンに別れを告げる,われらは汝を必要とせず。ドイツ産大黄は汝に完全に取って代わるであろう」。このように代用食品に頼り続けたということは,ヒトラーのドイツが第一次世界大戦の惨禍から回復していなかったことを如実に示している。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.274
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