安全性の問題は別にして,戦後のダイエット食品の最も興味深い面は,代用食品が消費者の望むものにいとも簡単に変貌したということである。ダイエット食品は,人間に栄養を与えるという,たべものの最も基本的な特性の1つに背いているのだが,いわばあまりに威丈高にそうしているので,人類を救っているのだと人は思ってしまう。科学者たちは,人が太ることなく,「楽しく,興味を抱いて」食べることのできる「ノン・フーズ」——「生理学的に無価値なことが保証されている,魅力的な食べ物」——を創り上げたことを自慢した。1968年,ゼネラル・フーズ社は人工果物と人工野菜を作る特許を取得した。それは,「食べられる,パリパリした,噛める,アルギン酸カルシウム・ゲルの不均一の集塊」から作られた。それは本物の野菜のように噛むとバリバリ音がするだろうが,食品価値にはまったく欠けている。もう1つのノン・フーズは合成サクランボで,サクランボ色をしたアルギン酸ナトリウムの溶液をカルシウム塩の溶液器の中に垂らして作られた。時間が経つと,サクランボに似た小さな雫状のものが一緒になってゲル化するのだ。こうした合成サクランボには,オーブンの熱に影響を受けないという「利点」があった。1970年までには,合成サクランボは合衆国,オーストラリア,オランダ,フランス,イタリア,スイス,フィンランドで売り出され,成功を収めた。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.310
PR