サフランの混ぜ物工作は,本書で扱われている最も古い詐術の1つである。なぜなら,本物は作るのに非常な労力を要するからだ。1ポンドのスパイスを作るのに,20万本ものサフランの花の雌蘂の先端の柱頭を必要とする。サフランは常に珍重され,高価だったので,いつも偽物が作られた。14世紀のニュルンベルクでは,サフランの混ぜ物工作が非常に広がっていたので,市はサフランを検査するための特別な法律を作った。その法律を破った者はロッホ,すなわちニュルンベルク監獄の土牢の底の一番深い穴に投げ込まれた。しかし欺瞞は続いた。商人はいくらかのオレンジ色がかった金色のマリーゴールドの花弁を混ぜたり,サフランを蜂蜜に漬けて重さを増したりした。
われわれの知るかぎり,サフランの欺瞞は今でも広く行われている。多くの観光客はマラケシュやイスタンブールに旅行し,なんとも安い「サフラン」の袋を買うが,家に持って帰ると,それが欝金と食品着色剤を混ぜたものなのに気づく。自分が買ったサフランが本物かどうかを知る簡単なテスト法がある。科学的な技術は必要ない。サフランを一撮み,湯を入れたコップに入れる。黒っぽい色が拡散するのに数分かかれば,それは本物である。だが,すぐ湯が黄色くなれば,それは偽物で,騙されたのだ。悲しいことながら,そのテストをする時には手遅れだろう。それを買ったところから飛行機で帰ってきたのだから。
ビー・ウィルソン 高儀 進(訳) (2009). 食品偽装の歴史 白水社 pp.353
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