この件に関して,フィンランドの研究者が優れた研究を行なっている。刑務所で出所間近の受刑者の耐糖能(グルコースの処理能力の指標)を測り,どの受刑者が出所後にまた罪を犯すか調べたのだ。当然ながら,もと受刑者が更生できるかどうかは,周囲からのプレッシャーや結婚,職につける見通し,薬物の使用など,多くの要因に左右される。だが,どの受刑者が再び暴力的な犯罪に手を染めるか,耐糖能のテストの結果だけから80パーセント以上の精度で予想することができた。犯罪を繰り返す受刑者たちは,どうやら耐糖能異常という病気で,食べ物を体のエネルギーに変える働きに問題があり,そのせいで自己コントロール能力が低くなっているらしい。この病気になると,食べ物をグルコースに変えることはできるが,それが血流にのって体内を循環しても吸収されず,血中のグルコースが過剰になりやすい。それはよいことに思えるかもしれないが,この状態は,焚き木がたくさんあるのにマッチがないようなものなのだ。グルコースは脳や筋肉の活動に活かされることなく無駄に体内を巡る。そしてこの量が一定以上高いレベルになると,糖尿病と診断される。
ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.64-65
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)
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