判定は精神的に負担の多い作業だ。判事が次々と決定を下していたとき,脳と体は(先述したとおり)意志力にとって重要な成分であるグルコースを消耗する。個人的にどんな信念を持っていようと——犯罪には厳しい措置を求めることで知られている,あるいは更生の可能性を重視するなど——それ以上の決定を行なう精神的エネルギーがほとんど残っていなかったのだ。そのため彼らは(自分にとって)リスクの少ない選択に傾いたと思われる。受刑者からすれば「判事がおやつを食べる前に審議を受けたからといって,なぜ刑務所にいる時間が増えるのか」と,ひどく不公平に感じるかもしれないが,このようなバイアスは他でもよく見られる。あらゆる状況で当たり前のように起こっているのだ。意志力と決定の結びつきは双方向のものだ。何かを決定すると意志力は消耗する。意志力が消耗すると,決定ができなくなる。あなたが1日中,難しい決断をする仕事をしているなら,ある時点で疲れ始め,エネルギーを温存する策を探し始める。たとえば決定を避ける,あるいは延期するといった方法が考えられるが,最も容易で安全なのは現状を維持することだろう。受刑者は刑務所に入れたままにしておくのだ。
ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.131-132
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)
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