自己認識は動物に見られる非常に特殊な性質だ。犬は鏡を見ると激しく吠えるが,それは目の前にいるのが自分だと気づかないからだ。ミラーテストと呼ばれる実験を行なうと,他のほとんどの動物でも同じような反応を示す。ミラーテストとは動物の体に匂いのない染料で印をつけて鏡の前へ連れていき,そのしみが自分の体についていると気づいている仕草(しみをよく見えるよう体の向きを変えるなど)をするかどうか調べるものだ。チンパンジーをはじめ,人間に近いサルはこのテストにパスできる。他にはイルカ,ゾウなども自分を認識できるが,ほとんどの動物が不合格だ。しみにさわろうと,自分の体ではなく鏡のほうに手を伸ばす。人間の幼児も幼いころはそのような反応をするが,2歳の誕生日を迎えるまでに,ほとんどの子供が合格する。2歳児はしみをつけられたことに気づいていなくても,すぐ自分のおでこを触ろうとする。これが自己認識の最初の段階だ。まもなくこの性質は思春期の苦労へと変わる。ティーンエージャーになると自分に欠けているものに過度に敏感になり,幼児期の無責任な自信は困惑と恥ずかしさに打ち砕かれる。彼ら,彼女らは鏡を見ては同じ質問を繰り返す。その問いについて心理学者は何十年も研究し続けている。自分を知るとみじめになるばかりならば,自己認識の意味はどこにあるのだろうか?
ロイ・バウマイスター&ジョン・ティアニー 渡会圭子(訳) (2013). WILLPOWER 意志力の科学 インターシフト pp.146
(Baumeister, R. F., & Tierney, J. (2011). Willpower: Rediscovering the Greatest Human Strength. London: Penguin Books.)
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